キャロル・グラック氏が第6回日本研究国際賞を受賞

このたび、第6回人間文化研究機構日本研究国際賞の受賞者を、コロンビア大学歴史学教授(ジョージ・サンソム教授職)のキャロル・グラック(Carol Gluck)氏に決定いたしました。グラック氏は、グローバルな視点から、日本近現代史、国際関係史および歴史学と記憶について研究をされ、日本研究の国際的発展に多大な功績を残されました。そして、その研究は、最新の歴史研究をはじめ、文化研究、社会分析、さらに他の諸科学の理論を駆使し検証する学際的なものとなっています。くわえて、日本と米国との共同研究や大学を拠点とした学際的な教育プログラムなどを通じ、次代の育成にも注力し、世界の日本研究の主導的な役割を担う研究者を数多く輩出するとともに、アカデミアと社会との知的な架け橋としての役割も担ってこられました(選考委員会の佐野みどり委員長がまとめられた「授賞業績・授賞理由」を御参照ください)。
本機構では、2025年3月19日に上野の日本学士院にて授賞式と記念講演会を催させていただきます。グラック氏と交流をさせていただけることは、私たちにとってこのうえない楽しみです。
さて、本機構が一般財団法人クラレ財団の御協力を得て2019年に創設した日本研究国際賞も今回で6回目となりました。お陰をもちまして、国内外から優れた研究者を候補者としてご推薦をいただき、受賞者の選考を滞りなく進めることができております。本賞の趣旨をご理解いただき、御協力くださっている皆様方に、まずは、御礼申し上げたいと思います。選考委員会では、ジェンダー、地域、等々、より多様な研究者を本賞の対象にしたいと考えております。さらなる候補者のご推薦を切にお願いする次第です。
(文責:人間文化研究機構理事 若尾政希)
授賞業績・授賞理由
キャロル・グラック教授は、日本近現代史の傑出した研究者としてアメリカ合衆国を拠点に国際的に活躍し、歴史研究を軸とした日本研究を世界に広めるとともに、その水準の向上に大きく貢献されました。
ジョン・キング・フェアバンク賞を受賞されたJapan's Modern Myths: Ideology in the Late Meiji Period(プリンストン大学出版局、1985年)は、英語圏におけるオリエンタリズムのもとでの日本像を脱却し、近代国民国家のもとでの日本の展開を、膨大な資料を用いて描きだし、それまでの「特殊な国・日本」という歴史像を、世界史のなかの日本像に書き換え、日本研究を大きく転換させるものでした。
日本の20世紀史に関する国境を越えた新たな対話を生み出した共編著のShowa: The Japan of Hirohito(ノートン、1993年)やWords in Motion: Toward a Global Lexicon(デューク大学出版局、2009年)は、グラック教授の異文化間対話への深い関心と知的範囲の広さに加えて、斯界における指導力をよく示しています。
グラック教授の影響力は学界内部にとどまらず、パブリックヒストリーの分野においても多くの業績を残しています。教授が組織した公開講座やシンポジウムは日本史に関する知識を広く一般の読者と共有するのに役立ってきましたし、日本やアメリカなどの主要な報道機関におけるメディア討論に大きく貢献し、歴史論争に関する専門知識を国際的な読者と共有してきました。
グラック教授は、その長く卓越したキャリアを通じて、日本史と歴史学の分野における革新者であると同時に指導者でもあり、後進の研究者の育成にも注力し、のちに世界の日本研究分野で指導的役割を担うことになる多くの大学院生や若手研究者を指導・支援してきました。東京大学社会科学研究所や同法学部、パリ社会科学高等研究院、ライデン大学、オスロ大学など、世界各国の主要な研究機関でも客員研究員を務め、国際的なネットワークを形成しています。また、Japan Forum、Japanese Studies、Social Science Japan Journal、Memory, Mind and Mediaなど数多くの学術誌の編集委員を務め、日本研究の普及に貢献しています。
以上、選考委員会は、日本、米国、その他の国々との間に知的な架け橋を築かれ、何世代にもわたる新進の日本研究者にインスピレーションを与えて続けてこられたキャロル・グラック教授を第6回受賞者として選んだことを、ここに喜びとともに報告します。
第6回人間文化研究機構日本研究国際賞授賞式及び記念講演のご案内
【前回の授賞式・記念講演】
第5回人間文化研究機構日本研究国際賞の授賞式と記念講演
機構のYouTubeチャンネルにて、授賞式・記念講演の映像を公開しています。
https://www.youtube.com/watch?v=SJLAoT15XHc