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NIHU Magazine

第41回人文機構シンポジウム「戦争をめぐる生と死」  

No.107
2025.02.24

 人間文化研究機構では大学や多様な研究組織とも連携しながら、人間文化に係る最新の研究成果をテーマとした「人文機構シンポジウム」を毎年度開催しています。第41回となる今回は「戦争をめぐる生と死」をテーマに掲げ、令和6年1月28日に対面とオンラインでシンポジウムを開催しました。当日収録した映像は、人間文化研究機構のYouTubeチャンネルで配信しています。

 本シンポジウムを企画した松木 武彦氏(国立歴史民俗博物館 教授)が、残念ながらご欠席となり、松木氏の趣旨説明を関沢 まゆみ氏(同博物館 副館長・教授)が代読する形で始まりました。

関沢 まゆみ氏(国立歴史民俗博物館 副館長・教授)


松木 武彦氏(国立歴史民俗博物館 教授)

趣旨:
 「生」と「死」に、生物学的現象以上の意味や価値を付与し、それをめぐる言説や象徴や行為を社会の維持と変革につなげていくことは、人類共通の普遍的事象であるとともに、個々の集団(民族・国家・共同体)の文化的・社会的多様性をもっとも如実に映し出す。

 本シンポジウムは、とりわけ「死」の意味や価値、言説や行為がクローズアップされる「戦争」という社会的状況に光を当て、過去や近現代のさまざまな社会において、生と死の姿がどのように言説化され、象徴化され、それをめぐる社会的・文化的行為として表現されるかを明らかにする。そのことを通じて、戦争の文化的・社会的本質と、それに照らした人間の生と死の文化的意味を浮き彫りにしたい。


 趣旨説明に続き、シンポジウムの前半は、4名の教員による講演です。
 まず民族学を専門とする野林氏からは、近代の日本による台湾統治期の争いといった過去の出来事だけでなく、それがどう現代社会に影響しているのかが紹介されました。

野林 厚志氏(国立民族学博物館 教授)


 続く山田氏は江戸時代以降の葬送儀礼に焦点を当てています。中でも明治期の日清・日露戦争や昭和のアジア太平洋戦争による死者の追悼は、葬送儀礼のありかたや死に対する人々の意識の変化を生みました。

山田 慎也氏(国立歴史民俗博物館 副館長・教授)


 次の講演者である粟津氏のテーマは黙祷です。英国領時代の南アフリカで始まったこの儀礼が日本に伝わった経緯や、黙祷にまつわる国内のエピソードが報告されました。

粟津 賢太氏(上智大学グリーフケア研究所 客員研究員・人材養成講座講師)


 4人目の講演者であるアルト氏は、日中戦争から太平洋戦争等を描いた日本のアニメ作品においてどのように戦争や死、更に生が描写されているのかを分析しています。

アルト・ヨアヒム氏(国立歴史民俗博物館 特任助教)


 最後の講演者である松本氏(岡山大学 教授)からは、猿や象といった動物の死に対する認識や行動と共に、人間特有の生と死、暴力に対する反応についての報告がありました。

松本 直子氏(岡山大学 教授)
※当日は録画映像での参加


 シンポジウム後半はパネル討論です。松木氏の代わりに関沢氏も加わり、各講演での共通項として、各国における死にまつわる花や色、他にも死の表象について記念碑(モニュメント)や葬儀で使う花輪といった事例が取り上げられました。

パネル討論の様子

木部機構長(左から3人目)と登壇者各氏


第41回人文機構シンポジウム「戦争をめぐる生と死」フライヤー

*各発表者の所属と役職は2024年1月現在の情報です。


(文責:大場 豪 人間文化研究機構 人間文化研究創発センター研究員)


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