調査研究の現場から @スイス 国際日本文化研究センター 大村一真さん

人間文化研究機構では、機構のプロジェクトの推進及び若手研究者の海外における研究の機会(調査研究、国際研究集会等での発表等)を支援することを目的として、基幹研究プロジェクト・共創先導プロジェクトに参画する若手研究者を海外の大学等研究機関及び国際研究集会等に派遣しています。
今回は、スイスに派遣された国際日本文化研究センターの大村一真(おおむら かずま)さんからの報告です。
私は、人間文化研究機構の若手研究者海外派遣プログラムの支援をうけて、令和6年8月15日~令和6年9月17日の間、スイスのチューリッヒに滞在しました。派遣機関中の受け入れは、チューリッヒ大学アジア・オリエント研究所でした。

私が派遣先としてスイスを選んだことには、いくつかの経緯があります。私はこれまでアドルノ、ホルクハイマー、ハーバーマスを代表とする20世紀ドイツの批判理論について研究してきました。そして2023年の春に日文研へ着任してからは、この批判理論の戦後日本における受容についても研究してきました。
例えば、アドルノとホルクハイマーの著作である『啓蒙の弁証法』には、「啓蒙は神話に退化する」というテーゼがあります。知識や科学は人間に繁栄をもたらしますが、その繁栄の水面下には暴力と支配が控えている。以上のように、このテーゼは、科学を発展させ開発を進める「近代化」を批判する論理として知られています。そして興味深いことに、こうしたテーゼは日本では、広島と長崎への原爆投下、アメリカの庇護下での戦後日本の経済成長という問題を考える手がかりとなってきました。
とはいえ、先の命題で述べられた「神話」とは何でしょうか。この問題を突き詰めて考えていくには、当時の西欧で神話がどのように議論されてきたのかを知る必要があります。ここに私がスイスを派遣先として選んだ理由があります。というのも、チューリッヒは、20世紀神話言説の「中央」であったからです。1900年代のチューリッヒには、神話学者バッハオーフェンの重要性を再発掘したクラーゲス、そして神話について独自の観点から考察したC・G・ユングが滞在していました。

それゆえ、滞在中は、チューリッヒ大学を拠点として関連資料を収集するとともに、C・G・ユング博物館を訪問して同博物館の管理者であるアンドレアス・ユング氏と面会しました。また、派遣先機関の研究者とも交流し、ヨーロッパの研究者もまた戦後日本の知的言説に興味を抱いていることを知りました。今後は、今回の調査を踏まえた成果公表を目標としています。
大村 一真(おおむら かずま)
京都生まれ。2023年3月同志社大学大学院法学研究科博士後期課程修了、博士 (政治学)(同志社)、現在、国際日本文化研究センター・機関研究員。主要論文「近代主権国家における排除と差別の論理」(茢田真司との共著)、磯前順一[他・監修]『差別の構造と国民国家:宗教と公共性(シリーズ:宗教と差別、第一巻)』法蔵館、2021年