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vol01/在宅勤務の中での出会い
研究者のおうち時間①

{ neko }の表記、どうすればいい?

 ところで、ここまで書いて思ったのは、{猫・ねこ・ネコ}いったいどの表記がいいのだろうか、ということである。そこで、日本語の書き言葉を大規模に収集した言語資源(コーパス)である『現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)』を対象に、その検索アプリケーションである『中納言(ver. 2.4.5, データバージョン 2020.02)』を用いて調べてみた。全てのレジスター(文書のジャンル)を対象に語彙素「猫」を検索し、検索結果をもとに100万語あたりの出現頻度に調整した(表1)。

表1 猫の表記についての100万語あたりの調整頻度
レジスター 表記 総計
ネコ ねこ
出版・雑誌 4.13 1.50 29.82 35.45
出版・書籍 8.90 1.40 39.01 49.32
出版・新聞 9.96 0.62 25.53 36.11
図書館・書籍 13.69 3.89 43.13 60.70
特定目的・ブログ 18.64 9.55 70.78 98.96
特定目的・ベストセラー 9.71 0.68 39.72 50.11
特定目的・韻文 4.28 4.28 205.63 214.20
特定目的・教科書 6.25 4.46 3.57 14.28
特定目的・広報紙 1.52 6.49 23.81 31.82
特定目的・国会会議録 0.00 0.00 0.18 0.18
特定目的・知恵袋 14.56 1.83 86.62 103.01
特定目的・白書 0.00 0.00 1.06 1.06
特定目的・法律 0 0 0 0
10.48 3.06 43.16 56.70

 表を見ると、直感的にわかるように、法律では猫について述べられておらず、類似のレジスターである白書や国会議事録でもほとんど使用されていなかった。どうやら国会では猫について議論されることはないようだ。

 他のレジスターでは、基本的には漢字表記の「猫」を使用することがわかる。なお、「親猫」はこれで一つの形態素として辞書に登録されているため、今回の検索結果には含まれていない。他とは異なる結果となったのは教科書であった。教科書ではカタカナ表記の「ネコ」が最も多くみられた。教科別に見てみたところ、理科の教科書に見られた。たとえば、(1)のように生き物を示す場合であった。このように生き物をカタカナで示すという規則が教科書において漢字表記の「猫」が少ないという理由の一つであった。

 また、それ以外にも、漢字の学習時期も影響していると考えられる。調べてみると、意外にも(?)「猫」は中学校で習う漢字であった。国語科の教科書を見ると、中学校では(2)のように漢字で使用されているが、小学校では(3)のようにひらがな表記がほとんどであった。このように教科と使用する学年によって表記の差が見られたことが、他のレジスターと異なる傾向が見られた原因であった。

(1)ホニュウ類・ウサギやネコ,クジラ,ヒトなどのなかま。(OT22_00001 三浦登2005『新しい科学 2分野上』東京書籍株式会社) (2)「ねずみがに追いかけられた」+「らしい」「だろう」というように、述べる内容がひととおりまとまったところで付くことになり、「た」のほうが先にくるのである。(OT02_00016宮地裕2005『国語 3』光村図書出版株式会社) (3)ねこはうそつきだよ。(OT11_00024 杉山吉茂,飯高茂,伊藤説朗ほか2006『新編新しい算数6下』東京書籍株式会社)

 最後にもう一つ特徴的だったことは、韻文(俳句や詩など)のレジスターでは、他のレジスターと比べて極端に漢字表記の「猫」が多く出現していたことだった。これは韻文ならではのテキストの硬さが影響を与えているとも考えられる。

 (4)黙し居る吾のまともに欠伸せしが見せたる薔薇色の舌(OV0X_00018 安立スハル2002『増補版現代短歌全集』筑摩書房)

 とりあえずうちの猫は今日もかわいい。

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