MENU
vol10/DH若手の会 発表報告
DH若手の会 発表報告

新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、私たち人文知コミュニケーターは研究者でありながら、生活者でもあるという立場から何ができるかを模索してきました。このウェブサイトは、そうした思いから生まれました。これからも身近な話題からちょっと難しい話まで、人文知コミュニケーターならではの視点で記事を発信していきます。

DH若手の会 発表報告
駒居幸 人文知コミュニケーター(人間文化研究機構 国際日本文化研究センター)

こんにちは。国際日本文化研究センター・人文知コミュニケーターの駒居です。
2024年2月9日に、“デジタル・ヒューマニティーズを行く「若手」の集い” として、DH若手の会「デジタル・ヒューマニティーズで“繋がる×広がる“人文学」 が開催されました。
この記事では、「DHって何?」という初心者ながら、発表者として飛び込んでみた人文知コミュニケーターによる、簡単な現地レポートをお届けします。

DHは「デジタル・ヒューマニティーズ」の略称で、文字通り、デジタルとヒューマニティーズ(人文学)を横断する研究領域です。DH若手の会の主催である、人間文化研究機構・DH推進室はDHについて以下のように説明しています。

人文機構では、人文学の様々な分野・手法にデジタル技術を適用・応用する研究分野であると同時に、他分野の研究者や社会の人々が集まり、横断的に議論し、新たな研究領域を共創する場や関連する研究基盤を含めた総体であり、次世代に向けた知の創成の基盤であると位置付けています。
引用元:人間文化研究機構DH推進室ウェブサイト, 「NIHU-DH事業について」, https://dh.nihu.jp/about

私は日本文学を対象に研究をしているのですが、DHというと「なんだか面白そう、でも難しそう」という印象で、デジタル技術を積極的に活用した研究は行ってきませんでした。どこから何を学べばいいのかさっぱり分からないまま、「面白そうだなー」の先の一歩を踏み出せずにいる中で開催されたのが、今回の「DH若手の会」です。
DH若手の会は、以下の趣旨で開催されました。

DHに関する研究をすでに積み重ねている人から、これからDHの世界で研究を行ってみたいと考えている初学者まで、DHに関心を持つ大学院生や若手研究者が大学や所属組織を超えて集い、互いの研究構想の紹介、DH研究で必要となる知識・技術の習得の仕方、キャリアパス形成に向けた戦略など、皆で情報共有を行います。
引用元:人間文化研究機構DH推進室ウェブサイト, 「DH若手の会「デジタル・ヒューマニティーズで“繋がる×広がる“人文学」」, https://dh.nihu.jp/news/20240111

この開催趣旨を読み、私は「この会なら初心者でも何とかなるかも?」と勢いで参加申し込みをし、いろんな人に会えそうだという好奇心だけを武器に会場に乗り込んできました。
私のポスター発表のタイトルは「国内外の日本文学研究を可視化する-デジタルで言語を越える試み-」。私は桐野夏生という日本の作家について研究をしているのですが、彼女の作品を取り扱った国内外の研究動向をデジタル技術を使って分かりやすく可視化できたらいいなあと考えています。そこで、自分の構想を語りつつ、実現方法を相談したい!という問いかけ・相談式のポスターを作成しました。
私にとってポスター発表をするのは人生で初めての経験です。文学が研究対象なので、パワーポイントやレジュメで口頭発表をする際には、長めの引用を記載することも多いのですが、紙面の狭いポスターではそうもいかず……情報の取捨選択が難しくも、新鮮で楽しくもありました。新しい形式での研究発表にチャレンジできるのも、異分野横断の面白いところだと思います。

駒居がポスター説明をする様子:当日は沢山の先達にアドバイスを頂きました。

ポスター展示の様子:工学系研究者のポスターと文化人類学の研究者のポスターが向かい合って展示され、文字通り領域横断的な会場構成です。

当日、会場には38枚のポスターが並び、前半組と後半組に分かれそれぞれ70分のポスター発表の時間が設けられました。どのポスターの前にも人が途切れない盛況ぶりで、私のポスターにも沢山の方が興味を持って下さり、70分間喋り通しでした。口頭発表だと発表時間ずっと質問に答え続ける……ということがなかなかないので、良い訓練になりました。人文学からいわゆる「理系」まで、教授から大学院生まで、色々な方にポスターの内容を説明するうちに、自分の中でも「DHで何がしたいのか」が明確になっていったように思います。異分野の方からの質問は自分でも言語化がうまくできていない暗黙の前提を見直す機会になり、近い分野の方とは「私もそれで困っているんです」という課題を共有する機会になり、DHの先達からは「〇〇という技術がある」「こういう考え方がある」「この勉強会がおすすめ」という提案を惜しみなく頂き、あっという間に終了時間になりました。

DHへの参入方法やキャリアパスに関する講演の様子

参加者としてとても楽しい時間であるとともに、人文知コミュニケーターとしては異分野が交流する場の作り方という観点において、学ぶ部分が多くありました。こちらの参加案内には「どんな人でも参加のしやすい、互いを尊重した、生産的な議論ができる場をつくる」という本会のポリシーがかなり明確に・詳細に示されています。初心者の私が「参加できそう!」と飛び込めたのも、このようなオープンな場の設定あってのことです。分野や業界を問わずコミュニケーションにおいて重要な前提が言語化されており、今後の企画の参考にさせていただきたいと思っています。
研究分野の内と外を結ぶという観点において、DHは人文知コミュニケーターの仕事と共有している問題意識が多いと感じています。今後も、同じ人間文化研究機構で仕事をする一員として、DH推進室との交流を継続していきます!

Copyright (C) 2023 National Institutes for the Humanities. All Rights Reserved.
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構