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vol06/社会を変えるための”人文知コミュニケーション”
社会を変えるための”人文知コミュニケーション”

新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、私たち人文知コミュニケーターは研究者でありながら、生活者でもあるという立場から何ができるかを模索してきました。このウェブサイトは、そうした思いから生まれました。これからも身近な話題からちょっと難しい話まで、人文知コミュニケーターならではの視点で記事を発信していきます。

社会を変えるための”人文知コミュニケーション”
横山晶子 人文知コミュニケーター(人間文化研究機構 国立国語研究所)

こんにちは、国立国語研究所人文知コミュニケーターの横山晶子です。

人文知コミュニケーターは、月に1回、人間文化研究機構の6機関のコミュニケーターが集まり、研究会を実施しています。2023年度は、「私にとって人文知コミュニケーションとは?」というお題で、それぞれが発表しました。

社会を変える「人文知コミュニケーション」

2023年7月25日の人文知コミュニケーター研究会(国立民族学博物館)では、アルト・ヨアヒムさん(国立歴史民俗博物館)が発表をしました。

アルトさんは、人文知コミュニケーターに着任してから「人文知コミュニケーションとは何なのか?」という問いに苦労してきたといいます。

アルトさんが所属する国立歴史民俗博物館は、博物館という性質上「研究を一般の人に伝える」という、人文知コミュニケーションの代表的なアプローチは既にしています。

ならばなぜ、人文知コミュニケーターは必要なのか???

アルトさんが思う「人文知コミュニケーション」とは、単に研究を社会に伝えることではなく、もっと踏み込んだミッションがあります。

それは「社会を変えること」。だからこそ、アルトさんは一番社会を変える力があると思う「大学生」への教育を重視しています。

大学の教育は研究者が担うので、教育への熱は人によってかなり温度差があります。自分の研究をただ横流ししている先生も多い。

でも、そこでの学生の反応をどう読むか?

もしかして寝てる・・・?? 反応なし・・・??

それは何故でしょう??

「反応がない」ということも立派なフィードバックの一つです。

それは、彼らにとって全く関心がないことだったのかもしれないし、
もっと悪いことには、反応する価値もないくらい”間違っていた”のかもしれない。

だから、伝え手である私たちがまずすべきは「自分たちが持っている人文知を、学生たちの日常生活と結び付けて伝えること」

そうすることによって、社会を変える力のある学生たちに、

世の中の問題をとらえ、どうしたら社会がもう少しよくなるかを考える機会を提供することだと、アルトさんはいいます。

 ***

「フィードバックを読むこと」は、研究にも繋がる、とアルトさんは言います。

研究を伝えたとき、人々の反応はどうなのか?

反応が全然ない、人々の日常とあまりに離れた研究は、
もしかしたらどこか間違っているのかもしれない。

そんな想像力、フィードバックを読む力が、人文知コミュニケーションには必要だと話していました。

発表を受けて:研究か、活動か?

私は、アルトさんが “研究、あるいは人文知コミュニケーションは、社会を変えるためのもの” と捉えていることが一番印象に残りました。

私がいる研究分野(言語学)では、「社会に介入する研究は、研究ではない(それは “活動”)」という風潮もあり、

「研究とは何をすることなのか?」考えさせられることもしばしばあります。

私自身は、すべての研究が直接社会問題の解決に繋がる必要はないけれど、

常に「自分の研究が社会にどう役立っているのか?」を意識していることは大切だと思っています。

「人文学は役に立たない」という批判を、自虐的に受け入れてしまうことでもなく、「役に立つことだけが学問じゃない!」と開き直ってしまうことでもなく、

直接的ではなくても、個々の研究が社会のどんな側面に結びついているのかを、丁寧に位置づけて伝えていくことが対話のスタートかと思いました。

フィードバックを「読む」力

それからアルトさんの、人文知コミュニケーションに必要なことは、「フィードバックを読む力」というのも、とても興味深い指摘だと思いました。

人文知コミュニケーターは、様々な機関や博物館で研修を受けますが、私が感銘を受けたことが、これらの機関が「フィードバックを真摯に受け止め、改善に努めていること」でした。

研究、あるいはそこから派生した地域還元は、
「やった」ところで止まってしまうことが多いのが現状だと思います。

しかし、長年フィールドワークで学んだのは、やはり、単に自分がしたい活動・伝えたい情報よりも、

聞いている方々の関心に沿うもの・反応が大きい活動の方が、その後の波及効果がずっと大きいということです。

反応してくれた方々の活動が、また次の大きな動きに繋がってやがて行政などの政策面にまで届いていく…。そういう場面を見てきました。

基礎研究として、評価を気にせずに粛々としなければいけない研究もあると思います。

でも、次の段階で研究を「社会を変える」につなげるとすれば、
・フィードバックを読み取る
・そして自分の研究活動を修正していく…ということは、

自分自身の研究を育てるためにも必要な作業だと感じます。

アルトさんから頂いた「フィードバックを読む」、今後の私の人文知コミュニケーションの指針の1つにしたいと思います。

アルトさん、率直で熱量のあるご発表、どうもありがとうございました!

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