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vol00/<危機>の時代に
人文知コミュニケーター座談会

今後のテーマ:食とコロナ

河合  最近、体に付いたウイルスがお風呂で流されるとか、お風呂に入ることで免疫力が上がるとかという噂がありますよね。

  やっぱり?韓国だったら、キムチを食べるから免疫力が高いんだと言っているのと同じだ。

堀田  SARSの時にもその噂が広まりましたよね。発酵食品のキムチを食べているから、韓国人はSARSにかからないと。モンゴルで流されたキムチのCMでも、SARSにならないと宣伝したものだから、「どれどれ」といってキムチにはまったモンゴル人が続出したという。だから、食文化を変える可能性すら孕んでいるんですよ。

  ああ、キムチナショナリズムの恐ろしさ。そういえば3.11の後、韓国にいる母は私に大量の昆布を送り付けてきました。昆布が放射性物質を分解するとか。

  私は今回アオサに騙されました。

河合  レシピというのは、普通の料理だけじゃなくて、何かを治すという意味もありますよね。薬としての食というテーマも面白いと思います。一方で、食におけるジェンダー的役割とそれによる差別という問題も出てくるかもしれない。そういう意味で、食は色々と展開可能な題材だと思います。

  ちょっと話が変わりますが、地球研では食というテーマを以前から扱っていて、持続可能な食の生産と消費に関する研究プロジェクトFEAST(https://www.feastproject.org)もあります。ここの研究者たちはローカルな農業と流通システムの重要性をずっと前から認識して研究してきているんですが、こんなにも移動が制限されて、限られた資源の中でやりくりしないといけなくなると、その大事さを改めて実感しますよね。
しかし個人的に注意を払わないといけないなと思うのは、キムチナショナリズムじゃないですけど、ローカルがいつの間にかナショナルにすり替わることです。コロナで、良くも悪くも国家の存在感が増してきていますが、この最中で「ローカル=国産」となってしまうと、こぼれ落ちることがたくさんあるだろうという気がする。例えば3.11の時に「がんばれ東北」が「がんばれ日本」になって、私は「日本人」じゃないから頑張らなくていいのかと思ったんですが、それと似たような状況にはなってほしくないですね。なので、あまりフラットな議論に止まらないといいなと、今の状況をみて思っています。

河合  歴史を見ると、日本人は米ばかり食べていたわけではなくて色々な穀物を食べていたのに、そういう事実がいつの間にかあやふやになり、主食=米というイメージが強くなった点も興味深いんです。また、「日本」ではなくて地方の事象だったことも、金さんが言ったように、いつの間にか「国家」のことにすり替えられることもありますよね。そういう誤解により、現在の国と国の仲が悪くなったり、国境が閉ざされたりするのは非常に怖いと思う。食というテーマの中に、そういうシリアスな課題があってもいいかもしれない。

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