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vol00/<危機>の時代に
人文知コミュニケーター座談会

今後のテーマ:現代日本社会の不確実性に対する脆弱さ

堀田  私はずっとモンゴルの遊牧民と生活してきたので、今の日本社会を遊牧社会と比較してしまうんです。で、「何と脆弱かな」というのが正直な感想です。大石さんが満面の笑顔で同意してくれていますけど。というのは、遊牧とはそもそも不確実性を生きるということなんですね。今日、家畜を1000頭持っていても、一晩寝たら雪害になって全部失うかもしれない。そういうことが日常なわけです。「明日が今日と同じと思うなよ」ということをみんなわかった上で、それでも普通に生きていく。 一方で都市化とは、不確実性をいかに少なくするかということの極みだと思うんです。明日も同じ時間に電車が来る、職場があるという当たり前さを今まで疑ったことがなかった人たちがこんなにたくさんいた、ということに驚きました。私は「明日から家で仕事をしなさい」と言われても全然ストレスではなくて、そうなったらそうなった時のベストを尽くせばいいやと思うんですが、これは多分遊牧民譲りなんでしょうね。もし彼らだったら、こんなパニックにはならずに淡々と次の道を探すだろうなと思って。もちろん人によって色々な状況がありますけど、ちょっと家に閉じ込められたぐらいで家族を殴ったり、なぜそういうことになるのかなと。だから、私が伝えたいと思ったのは、世界中にはいろんな形で不確実な世界を生きている人たちがいるので、もっと生き方を相対化してほしいということです。

  遊牧民社会といったら、侑香ちゃんからも聞きたい。

大石  私も深く同意します。シベリアの人々の感覚だと、明日トナカイが全部死ぬというのもあり得るので。そうなったらなったで、彼らは遊牧だけじゃなくて漁撈も狩猟採集もやっているので、食べていけると思います。そういった柔軟さが彼らの生きる術なんです。

堀田  そうなんです。だから、家畜が死んだら慌てるのではなくて、「死んだな」と。そしたら、首都に移住しようか、それとも海外に出稼ぎに行こうかといって、次の生きるための工作が始まっていくんです。草原の様子が良くなって「これなら家畜をまた増やせるな」と思ったら、また草原に帰ってきて遊牧をする。生きるための手段は一つではなくて、これをやってみて駄目だったらあれ、というような感じで、幾つも幾つも種を持っておく。その種は何かというと、人、人脈なんです。普段から常に家畜を失うかもしれないという危機感がどこかにあるから、人との出会いをすごく大事にする。いざという時にはちゃんとコネクションとして使えるように生存戦略を図っているんですよね。日本人はもうちょっと生存戦略について、真剣に考えた方がいいと思いました。

  われわれは他のところに委ねてしまっているということかな。何か確固たる社会システムを作り上げて、個々人はあまり考えなくなった。しかしそれが崩れたらパニックになってしまったということだと思う。

堀田  そう。だから、今回は亡くなっている人もいらっしゃるので慎重に言葉を選ばないといけませんが、ある意味チャンスだと思うんです。もう一回、自分がどこに立っていて、どうやって生きていこうと考えているのかを、真剣に考え直せるいいチャンスなのではないかと。なので、テレビに出てくる学者たちが「経済活動を元の状態に戻すには、あと何年かかる」などと言うのを聞くと、なぜ元に戻らないといけないのかと思う。何を悲観しているのかと。明日の可能性はどちらの方向にでも広がっているのに、元に戻そう、今までの路線に乗せようとする無駄な努力をしないでほしいなと。その力があるなら、もうちょっと見たことのない未来を考えられるかなと思います。

大石  未来の話が出たんですが、私も挙げたかったトピックです。私は自分の生活にあまり関心がないのか、新聞もテレビもあまり見ていないし、買いだめもしていない。だいたい絵を描いたり、縄跳びをしたりと、ファンタジーの世界をいきているんです。こういう私が挙げてみたいのがSFです。ディストピアのSFだと、大きな外敵が来て、それに対して国家や大きな機関が対応するんですけど、そのうち国家や大きな機関がどんどん権力を握って管理社会ができていく。これが、コロナ感染拡大防止対策として、外出自粛や休業要請をして人間の行動や生き方を制限したり管理したりしていくのと似ているなと。そういうことを「エヴァンゲリオン」を見ながら思っていました。また、今は新しい生活に慣れていって、新しい社会システムをつくる方向に切り替わっていく時期なので、人文学の視点から、人間の未来への想像力について考えてみるのもいいんじゃないかなと思います。

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