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vol00/<危機>の時代に
人文知コミュニケーター座談会

今後のテーマ:コロナ事態で浮き彫りになる社会関係のあり方

大石  もう一つ、私がテーマとして挙げたいのが人間関係です。コロナで人との距離や人間関係も変わってきていますよね。外出自粛により家にいる時間が長くなって家族関係が変わったり、オンラインのコミュニケーションが盛んになったりしていると、よく報道されていますよね。しかしそれだけじゃなくて、人間関係には衛生観念も関係していると思います。個人的な判断で「ここは汚い」、「ここは大丈夫」というグループ分けをしていて、それが人に対してまで広がっている。つまり、個人的な衛生観で他者に対する距離を決めていて、それがたとえば移住労働者や留学生、県外の人、医療従事者に対する偏見や差別を生んでいると思います。こうした個人の、非常に細かなグループ分けと不衛生のラベル貼りが人々の間である程度共有されると、より大きな差別に繋がるんじゃないかと思っています。自分も例外ではなくて、これまでは何とも思わなかったのに、頭では偏見だとわかっているのに、いつの間にか人と距離をとってしまっている自分を発見したりします。

  同感です。コロナが人間関係、その中でも特に否定的な側面を鮮明にさせていますよね。今、私は韓国の大邱・慶尚北道地域で調査をしているんですけど、ここは宗教団体を中心に多くの感染者が出たところなんです。政治的には保守党の畑だし、社会関係のあり方においても保守的な雰囲気が色濃く残っている地域として、有名。韓国では、出身地域や政治的立場によっては、この地域に対立的な姿勢をとる人も多いんですね。この根深い地域対立の構造が今回のコロナ事態で露わになっているというか、より強化されているなと思う節があって。感染者が多く発生した原因が、彼らの地域性にあるとバッシングするとか。

河合  金さんがおっしゃったように、地域や政治的グループ別でもそういうことはあるだろうし、社会経済的、あるいはジェンダー格差による理由で不利な立場にあったマイノリティの人たちが、今回のコロナ事態でより不利な立場になりつつあることは取り上げるべきだと思います。日本でも韓国でもアメリカでもそういうことはたくさん起きている。でもその一方で、今回の連載では、ポジティブな現象も取り上げたい。コロナ事態によって「ありがたい」、「すごく大切だ」と実感できたことを取り上げて、前向きになるきっかけを皆さんにお届けできたらいいなと思います。 それプラス、色々な力関係のバランスが崩れて、今後の国際情勢がどうなっていくのかも気になります。歴史学を勉強してきた立場からは、戦争が起こるのが一番心配なんですけれども。私がそれをどこまで記事にできるかは不明なのですけど、取り上げたいテーマですね。

  マイノリティという話が出ましたが、コロナ事態で外国人差別もより明らかになっていますよね。例えば、中長期滞在ビザを持っていて、日本に仕事も生活基盤もある外国人が、実質、日本から出られない状況になっています。というのも、4月3日付で、一度コロナで危険な地域に出国したら、日本への上陸(再入国)が拒否されるようになったんですね。これは感染防止のためには当たり前に見えるかもしれないけど、2週間隔離や検査という措置をすれば、日本人も日本滞在の外国人も同じはずなんですよね。先ほどの大石さんの話しのように、これは「他者は危ない」という感覚からきていると思います。混乱した状況で、頭じゃなくて体で考えてしまうというか。私自身、中長期滞在ビザを持って日本で生活している外国籍の人間でして、実家は韓国になるんですが、日本でかれこれ10年以上暮らしています。夫と、夫側の家族は日本籍ですし、研究や仕事の基盤も日本で築いてきたので、一度出国したら戻ってこられない状況は本当に辛いです。万が一、韓国の身内に何かあっても戻れないというのも怖いんですが(5月27日付で、人道上配慮すべき事情があるときなどは、個別の事情に応じて再入国を許可することが明記された http://www.moj.go.jp/content/001321919.pdf)、ひょっとしたら研究の機会を失う可能性だってあります。フィールドワークや、重要な国際学会などに外国人だけが行けなくなってしまうと、日本では公平に研究する、働く権利が保障されないという話になると思うんですよね。私の配属機関である地球研は外国籍の研究者が多いので、研究活動に大きな支障が出てきそうです。私は人間文化研究機構の研究者で、公務員のような安定的な立場ですが、もっと弱い立場の人はたくさんいるはず。他者に対する線引きとか差別は日本だけじゃなくて、これから色んなところで問題になってくると思います。

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