開設後6年目に入った地球研(総合地球環境学研究所)では、第1期の成果を広く国際的にも知ってもらうため、地球研全体の行事としては第1回目になる国際シンポジウムを、平成18年11月6日から8日、国立京都国際会館で開きました。テーマは Water and Better Life in the Future(水と未来のよりよい生活)。第1日目の11月6日は「水と未来可能性」と題する公開講演会とし、ユネスコ水担当のGordon Youngが「淡水資源の危機」について、地球研所長の日高敏隆が地球研の考えている「未来可能性」とは何かについて、わかりやすい講演をしました。新しい試みとして長岡京室内アンサンブルによるヴィヴァルディの「四季」ほかの演奏と組み合わせ、NHKの松平定知アナウンサーが司会。聴衆は1200人余りにのぼり、その反応から見てもアンケートから判断してもたいへん好評でありました。
学術的シンポジウムは国外からのほぼ50名を含めた関連研究者約270名が、11月7日の第1セッション"Water Imbalances(水のアンバランス)、8日の第2セッション"Human-Water Interaction(人間と水の相互作用)"で20ほどの専門的でかつ広い視野に立つ講演を中心に、レベルの高い論議がおこなわれました。講演と論議は全部英語です。
水が人間にとって必要不可欠なものであることは誰でも知っています。しかし現実に水をめぐる問題は複雑をきわめています。今、現実の問題を何らかの方法で解決し得たと思っても、そこには必ず、未来に向けての新たな難題が生まれています。そのようなとき、われわれは何を考え、何をなすべきなのでしょうか?このシンポジウムで得られたのは、こういうきびしい現状の更に新たな姿であったと思えます。
第1回国際シンポジウム講演
地球研の考えている「未来可能性」とは何か
内容はいずれこのシンポジウムの学術報告書として日英両文で発行されますが、それと並んで、一般の人々に向けて内容をわかりやすく日英両文で綴った、本屋さんで買える本を出版する予定です。なお、このシンポジウムは地球研開設の重要メンバーとして活躍中、カリフォルニア湾での研究中事故にあい、不幸にも亡くなられた東正彦当時京都大学教授のメモリアルとして行われました。
1日目の11月6日夕刻に開かれたレセプションには、本シンポジウム顧問の梅原猛氏をはじめ、地球研研究プロジェクトに加わっている若い研究者を含めて約170人あまりが出席し、国内・国外の異なる専門分野の人々の間で、親しい語らいがおこなわれました。これもこの第1回シンポジウムの大きな収穫でありました。
地球研開設以来、約15本にのぼる研究プロジェクトごとに、小規模な国際シンポジウムは数多く開かれてきましたが、このように範囲の広い国際シンポジウムをおこなうことによって、地球研が地球研として何を目指そうとしているのかが、国際的にもますます認識される新しいきっかけになった意義は、きわめて大きいと思います。研究にとってもっとも重要なのは、研究者の認識であるからです。
(平成18年11月28日掲載)
※著者の肩書きは掲載時のもの