No.044 - 国際シンポジウム2019「グローバル時代における人文学の日越協力」
国際シンポジウム2019「グローバル時代における人文学の日越協力」
人間文化研究機構理事・総合情報発信センター副センター長
李 成市
ベトナム国家大学ハノイ校人文社会科学大学と人間文化研究機構の学術交流協定締結を記念して、シンポジウム「グローバル時代における人文学の日越協力」を2019年11月12日に、ハノイ校の会議室において開催しました。
ハノイ校人文社会科学大学と人間文化研究機構との包括協定に相応しく、人間文化研究機構の各機関の研究者と、カウンターパートとなるハノイ校人文社会科学大学の研究者が各々共通の主題のもとで議論を交わしました。
協定締結の様子
機構側からの発表者は次のとおりです。
①海野圭介氏(国文学研究資料館)「東アジアの仏教伝承と越南・日本の書物文化」
②荒木浩氏(国際日本文化研究センター)「ベトナムにおける日本文化研究・教育の実践と展開-国家的連携の可能性とケーススタディ-」
③石黒圭氏(国立国語研究所)「ベトナム人日本語学習者の語彙習得」
④久留島浩氏(国立歴史民俗博物館)「自然災害で被災した資料の救済と活用-『資料ネット』の活動と『歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業』について-」共同発表者:天野真志氏(国立歴史民俗博物館)
⑤西條辰義氏(総合地球環境学研究所)「フューチャー・デザインとは何か?」
①海野氏は、中国・ベトナム・日本・韓国などの漢訳仏教圏における図像・絵画資料や、中国で撰述された経典(偽経)が東アジア諸地域の信仰や文芸の生成に深く関わり、民衆の支持を得て広範に受容され、各地域の習俗や価値観の形成に関わったことを論じました。あわせて書物のデジタル化とデータ公開によって、東アジア地域とベトナムにおける研究の方向性について具体的な提言がなされました。
②荒木氏は、これまでの日文研によるベトナムとの着実で継続的な研究交流を踏まえて、ベトナムにおける日本研究の各世代にわたる広がりを具体的に紹介しました。さらに古代以来の日越の重要な共通の知的基盤である仏教に依拠する共同研究の可能性について論じました。
③石黒氏は、日本語を学習するベトナム人がどのように語彙を身につけていくのか、中国人日本語学習との比較の中で、固有名詞の意味推測と、オノマトペの習得についての二つの研究を、ベトナム国家大学ハノイ校で行った調査に基づいて発表しました。
④久留島氏は、歴博が国内で推進してきた、「資料ネット」や各地の大学・博物館等との連携によって、日本列島における多様性と「開発」のもとで持続可能性とを両立できるような地域歴史文化の継承と創成に向けたネットワーク事業を紹介し、地域の歴史・文化資料の調査・保全・活用を行うことの現在的意義を論じました。
⑤西條氏は、将来世代に持続可能な自然環境と人間社会を引き継いでいくために、どのような社会の仕組みをデザインし、実践すればよいのかという問題を、京都府と岩手県矢巾町の事例を踏まえて、フューチャー・デザインの魅力と可能性を紹介しました。
④⑤が日本国内での実践の具体的な事例の紹介であったこともあり、ベトナムでの展開に対する期待が表明されました。
シンポジウムの様子 - 同時通訳 及び 日越両言語によるスライド
また、ハノイ校側からの発表者は次のとおりです。
①ファン・ハイ・リン氏「文化財活用における女性の役割-松坂木綿とコテゥ族の織物を中心に-」
②ヴォ・ミン・ブ氏「帝国日本の人的移動-ベトナムへの移動を事例に-」
③ファム・レ・フィ氏「ベトナムの昇龍京と東アジアの都城制」
①ファン・ハイ・リン氏は、松坂木綿(無形文化財)が16世紀初頭の貿易商・角屋七郎兵衛によって安南から送られた「柳条布」をモチーフにしたという仮説について、長期間にわたる両国のフィールドワーク、比較研究を通して、その裏づけを試み、あわせて文化財活用における女性の役割の重要性を論じました。
②ヴォ・ミン・ブ氏は、戦前から戦後にかけての日本人の移動について、従来必ずしも明らかにされてこなかったベトナムを含む仏印インドシナ地域の移動を中心に論じました。移動の実態を始め、人口移動を促進した政策が如何に展開されたのか、仏印に移動した人びとが戦後どのように帰還したのか、さらには戦後もベトナムに残留した日本人がベトナム社会にどのように包摂、あるいは排除されていったのかをも含めて明らかにしました。
③ファム・レ・フィ氏は、古代東アジアの都城制の比較研究は、従来、日中・日韓の比較研究を中心に行われてきましたが、2000年以来のベトナムにおける昇龍京遺跡の大規模な発掘を契機に、都城研究が新たな段階を迎えたことを踏まえ、改めてベトナムを加えた東アジア都城研究を提起しました。
①は日越双方の長年のフィールドワークによって、②③は既存の膨大な研究成果を踏まえつつ、当該期の緻密な史料考証に基づいて新たな事実を実証的に明らかにする意欲的な発表でした。
日越双方の発表は、いずれもシンポジウムの主題である「グローバル時代における人文学の日越協力」に相応しく、日越の歴史的な深い関係性を確認するとともに、今後の両国の学術交流における共有すべき論点を双方が各々具体的に提起するものでした。
発表会場では、ハノイ校関係者にとどまらず、ベトナムにおいて日本学研究に従事する諸大学、諸機関の研究者を始め、ハノイ校で学ぶ大学院生、学部生など約80名の参加者がありました。当日のシンポジウムは人文学の多岐にわたる諸問題が討議されましたが、行き届いた通訳によって、活発な討論が可能となりました。シンポジウムに協賛と支援を賜った国際交流基金に謝意を表します。
協定式後の記念撮影
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