No.056 - 人間文化研究機構・味の素食の文化センター共催シンポジウム「食のサステナビリティ~未来につなぐ食のあり方を考える~」
人間文化研究機構・味の素食の文化センター共催シンポジウム
「食のサステナビリティ~未来につなぐ食のあり方を考える~」
人間文化研究機構は、味の素食の文化センターとの共催により、シンポジウム「食のサステナビリティ~未来につなぐ食のあり方を考える~」を開催します。このシンポジウムは、これまで味の素グループ高輪研修センターを会場として、多数のご来場のみなさまをお迎えして開催してまいりました。しかし、今年はコロナ禍のなかにあってウイルス感染を防止する必要から、対面での開催を避けて事前に収録した映像をウェブ上で配信することにより実施します。さまざまな制約があるなかでも、このような形で開催されることによって、これまでにもましてさらに多くの方々が本シンポジウムに参加してくださる機会になれば幸いです。
さて、シンポジウムの構成は以下のとおりです。
インタビュー:生江史伸氏(レフェルヴェソンス エグゼクティブシェフ)
講 演:湯澤規子氏(法政大学人間環境学部教授)
トークセッション:生江氏、湯澤氏、ロバート キャンベル氏(日本文学研究者 国文学研究資料館長)
シンポジウムは、生江氏へのインタビューから始まります。生江氏は、環境への配慮や社会活動が評価されて、初の「アジアのサステナブル・レストラン賞」に選ばれたレフェルヴェソンスのエグゼクティブシェフです。インタビューでは、サステナビリティとはヒューマニティを追究することだと語ります。サステナビリティというと、とかくオーガニックやエコなどを思い浮かべがちですが、生江氏によれば、それだけではなく、来店する人々やそこで働くすべての人々を大切にし、社会との絆に注意を払うレストランこそが、サステナブル・レストランであるといいます。それは、そこで料理を楽しむ人と食材を生産する人とをつないで互いの意思を伝える場であり、多様な意見が平等に交差するコミュニケーションの場でもあると。そして最後に、「これからのシェフ像とは」との問いに、社会や世界との関係を考えられることと答えています。
続いて、法政大学人間環境学部教授の湯澤規子氏が、「『食』がひらく共在世界の過去・現在・未来―だれが胃袋の心配をするのか?―」の論題で講演しています。湯澤氏は、地理学、歴史学、経済学の視点から日常を問い直し、近年は「食」に関する著書を続けて3冊上梓している注目の研究者です。講演では、食のサステナビリティをヒューマニティとしてとらえる生江氏に共鳴しつつ、食を通じて人のみならず神や生物・無性物などの環境とともにあることを感じることが、サステナブルな社会にとって大切だと指摘します。そして、そのような共在世界の在り方は多様であることが望ましいといいます。また、子供たちや学生たちに食をめぐる想像力を育む活動を紹介しています。コロナ禍にあえぐなかで、「未来のひと皿」とは何かと問われ、「ただ毎日の普通の食事に誰一人困らない姿」といった学生の答えが印象的です。
最後は、人間文化研究機構を構成する機関のひとつ国文学研究資料館のロバート・キャンベル館長を加えて、生江氏、湯澤氏との鼎談によって行われたトークセッションです。ここでは、近代の都市における食の貧困の問題などを議論することを通して、「私」の周囲に共にある「共在世界」の役割が大切であることが指摘されています。また、食のサステナビリティには食への共感や想像力が必要であること、そのために生産者とのコミュニケーションによって食材との距離を縮め、食材のストーリーを語るという日々の実践も紹介されています。最後に、そのような「共在世界」を実現し、食のサステナビリティを手に入れるためのヒントは、私たちが身近なところで自覚して行動するなかに潜んでいると結ばれています。
本シンポジウムは、2020年10月9日に収録され、11月24日から人間文化研究機構のYouTubeチャンネル、味の素食の文化センターのウェブサイト等で公開されています。
文責:人間文化研究機構理事・総合情報発信センター長
青山宏夫
味の素グループ高輪研修センターで講演する法政大学人間環境学部教授湯澤規子氏。
レフェルヴェソンス エグゼクティブシェフ生江史伸氏、法政大学人間環境学部教授湯澤規子氏と国文学研究資料館長ロバート キャンベル氏との鼎談。
シンポジウムチラシ。