No.072 - ジャン=ノエル・ロベール教授が第3回日本研究国際賞を受賞

ジャン=ノエル・ロベール教授が第3回日本研究国際賞を受賞

 このたび、第3回人間文化研究機構日本研究国際賞は、コレージュ・ド・フランス教授のジャン=ノエル・ロベール氏に決定しました。ロベール氏は、フランスを代表する日本仏教学研究の第一人者として国際的にも高い評価を受けてきました。ここでは、ロベール氏が受賞者としてふさわしい研究活動をご紹介します。



 第一に、専門分野である卓越した仏教研究です。ロベール氏は日本仏教研究に取り組み、最澄の直弟子・義真による『天台法華宗義集』の詳細な訳注を伴う教義研究として成就されました。この研究は日本天台宗の教理についての西洋語による最初の体系的解明であり、その成果は国際的にも高い評価をえました。
 その一方で、ロベール氏は、天台宗の基となる鳩摩羅什訳『法華経』のフランス語訳を刊行し、西欧市民の感性に訴える優れた翻訳を通じて、ヨーロッパにおける仏教理解に大きく貢献しました。この翻訳を通じて、サンスクリット語原典に基づく従来の仏典研究に対して、漢語(漢文)が果たした役割を重視する視座をもたらしました。

 第二に、このようなロベール氏の新たな着眼によって得られた慈円の釈教歌に対する再評価についての研究です。鎌倉時代初期の天台僧・慈円が仏教教理を和歌に翻案した釈教歌について、それが歌であり翻訳でりながら注釈であることに注目し、釈教歌の役割を新たな観点から評価しました。和語、漢語、梵語という三つの言語の融合の場としての釈教歌の性格を明らかにするとともに、中世の詩歌における宗教と文学との関係に統合的視点をもたらし、釈教歌をより広い文学的文脈の中で捉え直しました。

 第三に、ロベール氏は釈教歌にみられるように、東アジアの仏教理解が漢文に依拠していることに着目し、それを西洋におけるラテン語の役割に比定することによって、俗語(和語)と対比される聖語(漢語)という観点から、日本文化を古今東西の文化史の文脈から捉えることを提唱しています。この聖語制(ヒエログラシア)の概念を用いることによって、漢語と和語の関係を捉える分析視角は、普遍的な視点からの日本文化論の新たな試みとして、今後もその成果に期待されます。

 第四に、ロベール氏は教育者としても優れた実績をもち、フランス国立高等研究院で後進の育成と指導に尽力し、幾多の優れた日本文化研究者を育成してきました。また、学術交流の面でも、ロベール氏は日本の研究者と緊密に連携して数々の国際会議を組織し、知識交換の場を積極的に設けることに力を注いできました。

 人間文化研究機構日本研究国際賞の選考委員会では、このようなロベール氏の豊饒な研究活動を高く評価し、2021年度の日本研究国際賞の受賞者に選出しました。本年初夏には授賞式と受賞記念講演を都内で予定しており、ロベール氏との交流を楽しみにしています。
 

ジャン=ノエル・ロベール氏

ジャン=ノエル・ロベール氏



文責:人間文化研究機構理事・総合情報発信副センター長
李成市