No.088 - アンドルー・ゴードン教授によるクラレ倉敷事業所での講演会
アンドルー・ゴードン教授によるクラレ社倉敷事業所での講演会
米国ハーバード大学リー&ジュリエット基金歴史学部のアンドルー・ゴードン教授は、2020年に第2回人間文化研究機構日本研究国際賞を受賞しました。今回の来日においてゴードン教授は、クラレ財団のご支援により株式会社クラレの倉敷工場を訪問し、従業員の方々に向けた講演会を実施しました。本号では講演会の様子をお伝えします。
ご講演「ある海外の歴史学者から見た日本近代の魅力と課題」の冒頭では、ゴードン先生が高校生の時に日本に滞在し、ホームステイや工場見学等を通じて日本に関心を抱いた経緯が紹介されました。特に工場での体験は、後に大学院の博士課程において日本の労使関係の歴史研究を研究テーマに設定する上での1番の理由となりました。この研究テーマを含む日本近代史の1つ目の魅力についてゴードン先生は、「日本の近代史は世界の近代史との共通性と独自性を一緒に考えることができる」と述べています。続く2つ目の魅力は明治維新によって、例えば交通手段が飛脚から鉄道に変わるといった変化が非常に速い時期です。その一方で先生は、家事や育児における男女の役割の変化のように変化の遅い時期がある点を謎もしくは3つ目の魅力であると説明しました。
日本近代の課題についてゴードン先生は、現在が変わると、もしくは現代の人の問題意識が変わると見るべき対象が変わる点を挙げています。その一例として、2003年に第1版が出版されたご著書のA Modern History of Japan: From Tokugawa Times to the Presentにおいて日本での災害、とりわけ地震と津波についてほとんど触れていなかったため、2014年の第3版(邦訳書名『日本の200年:徳川時代から現代まで』)の出版に向けて、江戸時代から2011年の東日本大震災までの災害に注目しました。2つ目の課題は、帝国主義や戦争といった日本近代史の不都合な歴史を直視することの重要性です。
ご講演後にはゴードン先生と従業員の方々との質疑応答や意見交換が行われました。テーマは『日本の200年』へのコメントから始まり、最近の国際情勢、歴史を学ぶ意義、会社の帰属意識やワークライフバランスを含む日本の雇用制度の変化、日本は単一民族であるという伝統的な意識と海外からの移住者の受け入れ制度との因果関係、日本と海外の考え方の違い、ゴードン先生から見た日本の魅力など多岐に渡りました。
(文責:大場 豪 人間文化研究機構 人間文化研究創発センター研究員)