日本を含めたアジアの自然は、われわれが想う以上に豊かで変化に富んでいます。アジアの多様な文化は、その自然とのかかわりのなかから生まれました。自然はときには慈母のように優しく、ときには厳父のように峻烈です。こうした自然から、われわれは何を感じて、どのように生活を守り、かつ彩り豊かなものにしてきたのでしょうか。
この問いを、( Ⅰ ) 言語世界から見た自然への認識と思想、言語表現の多様性と普遍性、( Ⅱ ) 自然の模倣と擬人化などを通じた「自然の文化への取り込み」と表象、( Ⅲ ) 森林・河川・沿岸域における自然の保全と利用上の慣行、の3つの側面から研究してきたのが本連携研究です。総合地球環境学研究所、国立国語研究所、国際日本文化研究センターが核となって組織しました。メンバーは専門分野も関心もそれぞれ異なるため、個別の研究よりも、合同研究会など、協働作業を重視するようにしました。
たとえば、国内のフィールドを相互に訪問、地元の方々とセミナーを共催しながら、その地域に固有の自然と文化について議論を重ねたことがあります。戦後日本の人文系学会が、欧米とは一線を画した独自の人間科学のありかたを模索するため「九学会連合」を組織し、日本各地で共同調査を行いました。われわれが訪問したフィールドは、奇しくも多くが「九学会連合」の共同調査地でした。半世紀を経て、環境問題がその一つですが、既存の一つの学問だけでは対処できない課題が山積しています。その解決に向けて、再び日本の人間科学を再構築する必要があると実感しました。
研究連絡誌『人と自然』の発行も協働作業の一つです。毎号テーマを決め、分野横断的な論考を集めました。テーマは「火」「音」「虫」「天」「色」「花」「香」「風」など。力作ぞろいですので、新たな論考を加え、5年間の成果の一つとして、『五感/五環―文化が生まれるとき』という一冊の本に編み直すことにしました。
研究代表者: 総合地球環境学研究所 阿部健一