シンポジウムを終えて(3/4) チキュウ学的人間論
松井 孝典 *
いわゆる人文科学、社会科学と称される分野の学問が、現在どういう状況にあるのか、その現状と直面する課題が皆目わからないので、今後どうすべきかについて、なにか具体的に意見を述べることなどできない。しかし、これまで、いわゆるこれらの学問が対象としてきた領域に関して、なんらかの新しい視点からの探求が必要なのではないかという印象は持っている。なぜかといえば、われわれは現在、文明の未来に関して多くの問題に直面するにもかかわらず、それに対してなんら有効な対応策を持ちえない、という状況の中で、自然科学者といえども、それに関しなんらかの対応策を考えざるをえない状況にあるからである。今どういう対応をするかが、その未来を決めるという、その分岐点に立つという意味で、現在は誰もがこの問題に関し、傍観者を決め込むことはできない。
筆者が得た視点とは、パネル討論のなかでも述べたように、地球システムと人間圏なる概念の導入である。それを導入することで、従来の、いわゆる生物学的人間論、あるいは哲学的人間論ではその本質が議論できなかった、いわゆる文明のパラドックスに関わる問題について、その本質に迫る議論が可能になる。現生人類はそれ以前の人類とは異なる存在であり、従ってその特殊性の分析から、文明の本質について議論が可能になる。地球や生命や文明の普遍性を宇宙に探る、この新しい知的領域の探求分野を、筆者はチキュウ(地球、智球)学的人間論と称している。